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福岡高等裁判所 平成12年(ネ)415号 判決

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨(控訴人)

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の本件訴えを却下する。

3  訴訟費用は、第一、二審を通じて被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁(被控訴人)

主文同旨

第二当事者の主張

一  被控訴人の主張

被控訴人の主張は、原判決の「事実及び理由」欄の一記載のとおりであるからこれを引用する。

二  控訴人の主張

控訴人は、被控訴人の主張する請求原因(原判決の「事実及び理由」欄の一の1及び2の請求原因)は認めると述べたが、次のとおり、被控訴人の本件訴え(本件手形金債務の不存在確認)は、訴えの利益がなく却下されるべきであると主張した。

1  手形の異議申立は、持出銀行から交換に回された手形に対し支払いがされず、持出銀行及び支払銀行から手形交換所に不渡届(手形交換規則六三条一項二号、同細則七六条一項)が提出された場合において、右支払拒絶が手形振出人の信用に関するものではないとして、同振出人の依頼に基づいて支払銀行が手形交換所に不渡手形金額相当額の異議申立提供金を提供してこれをするものである(規則六六条一項、細則七八条)。

2  右異議申立提供金は、振出人が支払銀行に対し、手形交換所への異議申立事務を委任するにあたり、当該委任事務処理のために必要な費用の前払いとして預託する金銭であり、したがって、支払銀行に対するその返還請求権は委任者である振出人がこれを有し、反面、手形交換所に対して異議申立提供金の返還請求をできる者は、振出人ではなく、支払銀行自身である。

そして、異議申立提供金は、規則六七条一項各号の事由の発生した場合において、支払銀行から手形交換所への請求により支払銀行に返還され、これにより、支払銀行は振出人に対し、異議申立預託金を返還するものとされている。

3  本件は、控訴人が福岡シティ銀行本店に本件手形の取立委任をしたところ、交換に回った本件手形の支払いを拒絶されたため、支払銀行である福岡銀行博多駅東支店が二号不渡届を出すとともに、被控訴人の依頼を受けて手形交換所にこれに対する異議申立をし、その後、本件手形金請求事件の判決により、被控訴人の本件手形金の支払義務の存在が確定し、振出人である被控訴人は、控訴人から本件手形を受領するのと引き換えにその支払いを了している。

したがって、被控訴人は、持出銀行及び支払銀行に対しては、右確定した判決及び手形金の受領証を提出することにより、容易に右支払いの証明ができるものである。

4  そして、不渡手形の事故解消届は、不渡事故が発生した場合において、持出銀行から義務として交換所へこれを提出することとされている(規則六七条一項一号、細則八〇条)が、いかなる場合に「不渡事故が解消」されたとするかについては明文の規定はない。しかし、右不渡事故の解消とは、実務上、振出人等の支払拒絶状態が手形債務の消滅、和解による支払猶予等により解消された場合を指すものとして取り扱われており、その際、持出銀行は、不渡事故が解消したことを確認する必要があり、通常、手形所持人等の権利者からの依頼に基づきこれを確認した上で不渡事故解消届を交換所へ提出するものとされている。

また、本件の場合のように、手形金の支払済み等、手形債務が実質的、確定的に消滅している場合には、振出人の支払銀行に対する異議申立の依頼は、その目的の消滅により全く無意味となり、交換所も異議申立提供金を拘束している理由がなくなっているのであるから、持出銀行は不渡事故解消届を提出する義務を負うのであり、また、支払銀行も、異議申立受任の趣旨からして右規則、細則の原則に沿う持出銀行からの不渡解消届の提出を待つまでもなく、速やかに交換所に対し、異議申立提供金の返還を請求し、その返還を受けたときには、振出人に異議申立預託金を返還すべき委任契約上の義務があるものというべきである。更に、これらとは別に、振出人は、本件手形金債務の支払義務が確定した後、その全額支払いをなす前に、持出銀行に依頼して、支払義務確定届を交換所へ提出してもらえば、支払銀行は直ちに交換所に対し、異議申立提供金の返還を請求することができるものとされている(規則六七条一項七号、細則八〇条の二)。

5  右のとおり、不渡処分の銀行実務は運用されているのであり、被控訴人はかかる措置に必要な手形債務の存在の確定及びその弁済の事実を証明して本件異議申立預託金の返還を受けることは、控訴人の協力を得なくても極めて簡単にすることができるのであって、債務不存在確認訴訟を提起して、その確定判決をもって本件異議申立預託金の返還を受けるという極めて迂遠な方法をとる必要性は全くない。

したがって、本件確認訴訟は、より抜本的な解決方策が存在するのに、それによらず提起されたもので、争いのある権利関係について反対の利害関係を有する者との関係において、これを確定させることが必要、かつ、適切な場合にのみ認められる確認の利益を欠いた不適法なものである。

6  控訴人は被控訴人振出の本件手形を取得したので、持出銀行に対し、その取立を委任しただけであり、支払拒絶によって本件手形の返還を受け、その委任は終了したものであって、持出銀行との間に何らかの契約関係を有しているものではなく、本件手形金の支払いを受けたからといって、持出銀行にこれを報告したり、不渡解消届の提出を依頼したりするなどの法的義務を負うものではない。控訴人は、現在、被控訴人に対して、本件手形債権の存在など主張していないのに、かかる訴えを提起されて迷惑千万である。

三  控訴人の主張に対する被控訴人の反論

被控訴人は、本件手形金債務の支払いを命ずる確定判決正本と控訴人に対する本件手形金の支払いを証する書類を支払銀行である福岡銀行博多駅東支店へ持参して支払いを求めたところ、持出銀行である福岡シティ銀行から不渡解消届が提出されていないから本件異議申立預託金の返還を受け入れられないとの回答がされ、結局、本件異議申立預託金の返還を受けられなかったため、本件訴訟提起を余儀なくされたものであって、訴えの利益があることは明らかである。

第三当裁判所の判断

当裁判所も、本件においては、請求原因1及ぴ2の事実は当事者間に争いがなく、かつ、被控訴人には本件手形金債務の不存在確認を求める訴えの利益は存在するから、被控訴人の請求は理由があるものと判断する。

その理由は次のとおりである。

一  控訴人の主張は、要するに、控訴人は被控訴人の本件手形債務の存在を主張するものではない上、被控訴人が本件異議申立預託金の返還を受けるには、持出銀行や支払銀行に対して、本件手形金支払義務の存在とその支払いの事実を立証すること(具体的には、手形金支払いを命ずる確定判決と弁済の受領証を提出すれば足りる。)によって、控訴人の協力など得ずとも極めて簡便に行うことができるものであって、かかる抜本的解決策があるにもかかわらず、本件手形金支払債務の不存在確認を求める訴えの利益はないというものである。

二  なるほど、控訴人は、被控訴人の本件手形債務が消滅したこと(不存在)を争ってはいないが、本件手形債務の不存在を確認する確定判決を必要とする特別な事情がある場合には、確認の利益は肯定されるというべきであるところ、本件においては、次のとおり、右特別の事情が存在すると認めるのが相当である。すなわち、

1  原審における調査嘱託の結果及び弁論の全趣旨によれば、控訴人は本件手形の持出銀行である福岡シティ銀行本店に対して、不渡事故の解消の報告等をしていないことによって、持出銀行である同銀行は不渡事故解消届を提出しないものであることが認められる。

2  また、甲号各証及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人が本件訴訟提起に至ったのは、本件手形金債務の支払いを命ずる確定判決正本と控訴人に対する本件手形金の支払いを証する書類を支払銀行である福岡銀行博多駅東支店へ持参して支払いを求めたが、同支店からは、「持出銀行である福岡シティ銀行からの不渡事故解消届が提出されていないために、手形交換所から異議申立提供金の返還を受けられない」との回答がされ、結局、本件異議申立預託金の返還を受けられなかったためであることが認められる(控訴人の主張する方法で、容易に手形交換所から異議申立提供金の返還がされるものなら、被控訴人において、わざわざ本件訴訟を提起することは通常、想定し難い。)。

3  以上のとおり、被控訴人は、控訴人が主張する簡易な手段により本件異議申立預託金の返還を求めようとしたが、これによってはその目的を達することができないために、本件手形の支払義務の不存在を確認する確定判決を求めているものであって、確定判決を必要とする特別の事情があるというべきである。

三  なお、控訴人は、本件訴訟によらずとも、被控訴人が本件異議申立預託金の返還を受けるためには、他に適切で抜本的な方法があるとして、手形交換規則や細則を引用して、縷々主張するので付言する。

1  交換所から支払銀行に対する異議申立提供金の返還事由として規則六七条一項は「不渡事故が解消し、持出銀行から交換所に不渡事故解消届が提出された場合」と定め、また、細則八〇条は「異議申立が行なわれた不渡届について不渡事故が解消したときは、持出銀行は、不渡事故解消届を交換所に提出するものとする。」と定めている。

右不渡事故の解消の内容については、細則においても具体的には定められていないところ、振出人等による支払拒絶状態が、手形金の支払いにより解消された場合において、手形権利者が振出人等を不渡処分とせず異議申立提供金を支払銀行へ返還することを同意している場合には、異議申立にかかる不渡手形の持出銀行は、この不渡事故解消届を交換所へ提出することを義務付けられているが(裁判所に顕著な事実)、単に、手形金支払いのための振込書や領収書を振出人等が示した場合においては、その書類の証明力にもよるであろうが、持出銀行が「不渡事故の解消」がされていることに確信が持てないとして不渡事故解消届の提出を躊躇することもあり得ると解される。

そして、本件においては、原審における調査嘱託の結果及び弁論の全趣旨によれば、控訴人は持出銀行である福岡シティ銀行本店に対して、不渡事故の解消の報告等をしていないことによって、持出銀行である同銀行は不渡事故解消届を提出しないことは前記のとおりである。

よって、持出銀行から不渡事故解消届の提出がなされるためには、被控訴人において、手形金支払いを命ずる確定判決と本件手形金の弁済の受領証を提出すれば足りるとする控訴人の前記主張は採用できない。

2  次に、控訴人は、「支払銀行も、異議申立受任の趣旨からして交換所規則、細則の原則に沿って、持出銀行からの不渡解消届の提出を待つまでもなく、速やかに交換所に対し、異議申立提供金の返還を請求し、その返還を受けたときには、振出人に異議申立預託金を返還すべき委任契約上の義務がある」と主張するが、支払銀行が、振出人等に対して、持出銀行からの不渡解消届がない場合にも、直ちに手形交換所に対して異議申立提供金の返還を請求する義務を負っているとは言い難い。

3  更に、仮に、持出銀行や支払銀行が、控訴人が主張するような義務を負っているとしても(被控訴人において、手形金支払いを命ずる確定判決と弁済の受領証を提出すれば、持出銀行においては不渡事故解消届を提出すべきであり、支払銀行においては異議申立提供金の返還を請求すべきであったとしても)、被控訴人において、手形金支払いを命ずる確定判決と弁済の受領証を提出したが、両行がその義務を履行しないという場合に、被控訴人が、より明確な返還事由(規則六七条一項六号)に基づいて、支払銀行に交換所から異議申立提供金の返還を受けさせた上で、支払銀行から本件異議申立預託金の返還を求めるために、本件訴訟を提起することは必要性があり許容されるべきである。

4  また、控訴人は、「振出人は、本件手形金債務の支払義務が確定した後、その全額支払いをなす前に、持出銀行に依頼して、支払義務確定届を交換所へ提出してもらえば、支払銀行は直ちに交換所に対し、異議申立提供金の返還を請求することができるものとされている(規則六七条一項七号、細則八〇条の二)」と主張するが、支払義務確定届は、異議申立にかかる不渡手形の持出銀行が手形権利者の申出に基づいて交換所へ提出するものである上、支払義務確定届の対象となる不渡手形は、その手形金額の全額について支払義務があることが裁判により確定したにもかかわらず、支払いがされていない手形であるから、控訴人の前記主張も本件には適合せず、失当である。

四  よって、本件確認訴訟においては、訴えの利益はあるというべきである。

第四結論

以上の次第で、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法六七条一項本文、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川畑耕平 裁判官 岸和田羊一 裁判官 白石哲)

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